ひとりでに開く仏壇の押し込み
どんな伝承か
二十年前、巡査だった主人の転任で、一家は京都府天田郡下六人部村に引っ越した。六間ほどの家なのに家賃がひどく安いのを、不思議とも思わず喜んで住んだ。ところが古井戸の底に何かがいたり、悪臭が漂ったりと、恐ろしいことが続いた。木枯らしの吹くある日の夕方、門口で、足もとで、ついには背後で、髪の逆立つようなぎいっという音がした。振り向くと、前の住人一家が死に絶えて残された仏壇の押し込みが開いていた。供養する者のない仏だからと毎朝茶や飯を供え、押し込みも確かに閉めておいたのに、ひとりでに開いたのである。そのときあたりが冷え切ったように感じ、語り手は気に病んで大病を患ったという。
原典より
供養する……のない……だから、と気の毒に思つて毎朝お茶や御飯を供へてゐますので。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。