母娘は身投げし父は棟木で縊死
どんな伝承か
見舞いの人はさらに家の由来を語った。八、九十年前、どこからともなくある一家が移ってきて、当時の村の有力者の世話でその家で商売を始めた。主人は大層やさしい人で初めは繁盛したが、いつからか一家についてある評判が立ち、ついには村づきあいも絶えた。二年のうちに二度も火事に遭い、一人娘は後の火事で美しい容貌を損ない、それを苦にして井戸へ身を投げた。母親も間もなく後を追うように井戸に沈んだ。残った主人もこの世が嫌になり、家の棟木で首を吊って死んだという。その後、その棟木を使った家の者がまた首を吊ったため、恐ろしさに棟木は焼き捨てられたそうである。
原典より
『今から八九十年前に何處からともなく、……の一家が……してきて、今の村長……の……父の世話であの家に開業した、……は大層やさしい人で、始めはよく流行たさうだが、……内……いふとなく、××だ、××ださいふ評判が立て、仕舞に…—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。