剣先をにらみ据える病人
どんな伝承か
加持が進み、宮崎加賀守は十種の神宝の古語を誦しながら、白羽の矢で病人を刺す所作を行ったが、少しも手ごたえがない。長剣で斬りつけようとすると、病み衰えたはずの病人は煙管と火入れを両手に構え、明星のような眼で切先を睨みつけた。剣を左に振れば右に見つめ、右に引けば左に付け、秋毫もまじろがぬ身構えは一騎当千の猛士のようで、居合わせた人々は面色土のごとく総身に震えを起こした。宮崎氏が声高らかに呪文を唱えて斬りかかると、病人はようやく煙管を投げ捨て、二尺ばかり飛びしざって平伏した。
原典より
此方が長剣を左に振れば右に見つめ、……に引けば……に付け、その間秋毫もまじろかず…—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。