全身が膨れ髪の抜けた妻の神懸り
どんな伝承か
東京府下三河島町字蓮田一四三、請負業澤部善三郎の妻かね代女の神懸り現象の報告。かね代は山梨県北巨摩郡穂坂村字久保の横森市太郎の三女で、横森家は代々名主を務めた村内随一の旧家であり、曾祖父市兵衛は学識に優れ教育や産業の開発に尽くした人であったが、明治二十四年に市兵衛が没すると家運は急に傾いた。かね代は嫁ぐたびに病身となって実家へ戻ることを繰り返し、最後に三河島の澤部家へ後妻に入る。大正十四年に入ってから全身に水気が来て膨れ上がり、頭髪が抜け落ちた。医者を訪ね歩いても効なく、近隣は梅毒だと噂した。その難病は幽冥の世界から因縁を引いた事柄であったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した心霊現象の記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人数十人が憑きものに狂乱し、藩の役人が祈禱や鉄砲で鎮めた事件を、嘉永六年に野島通玄が記した記録から紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に先祖横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。