盥の中に消えた蛙と現れた蛇
どんな伝承か
江戸時代、水戸藩士結城美濃守家に仕える中間が庭の掃除をしていた折、蛇が蛙を呑もうとしているのを見つけて追い払い、隣家の竹山へ投げ捨てた。逃がした蛙に向かって独り言のようにつぶやいていると、蛇は幾度も戻ってきて蛙を狙う。とうとう盥を蛙にかぶせて隠したところ、蛇は盥の周りを数十遍も回った末に息絶えた。盥を取りのけてみると、中に蛙の姿はなく、投げ捨てたはずの蛇の死骸だけが残っていた。一同は肝をつぶして驚いたが、程なくその死骸も消え失せたという。蛇を投げ捨てた堀は、今の茨城県庁前にあるものだと伝わる。
原典より
一同ぎょっとしてあきれたりしが、程なく消え失せけるとなり。—— 霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年))
『霊の世界――小品集』は、田中千代松が新聞・雑誌に寄せた心霊研究の随筆や小論に手を加えて集めた心霊研究文庫の第三冊で、はしがきは一九七八年十一月の日付である。SPRの成り立ちや催眠術・超心理学の来歴、クルックスやフラマリオンを論じる文章のほか、土井晩翠・河上肇・福来友吉の挿話、平田篤胤が記した仙童寅吉、秋山真之の霊夢などを収める。「エッセイ種々」「群像」「ものがたり回顧」の三部に分け、多くの篇に初出の誌名と年月を添える。