鬼熊一代記(最後のエピソード)
どんな伝承か
大正十四年九月二十八日のことだという。千葉県香取郡多古町の隣村、久賀村二本松の旅人宿松野屋の二階で、荷馬車挽きの熊次郎が酒を飲んでいた。隣室の女おはなに客がついているのを知った熊は、女将のお瀬にからみ、亭主の忠治とも激しく言い争った。挙句に階段の上に立ちはだかって下へ小便を垂れようとし、駆け上がってきた忠治と取っ組み合いになる。熊が忠治の股間を打って動けなくすると、忠治の女房がビール瓶で熊の額を殴りつけ、血が飛び散ったという。
原典より
大正十四年九月二十八 のがだのことであつた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が明治・大正の世に起きた事件や奇談を読み物に仕立てた実話集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十四年に千葉の久賀村で起きた鬼熊の事件など、一揆・殺人・盗みの事件、遺言状をめぐる話、奇人の話、幕末の暗殺を、関係者の話や記録をもとに描く。各話は章を立てた読み物で、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねて聞いた補遺を付す。