矢を射込まれた都倉安五郎の殺害
どんな伝承か
大正四年五月、香取郡山倉村新里で雑貨を商う都倉安五郎の家の周りに、夜な夜な何かが投げつけられた。十六日の雨の夜、雨戸に矢が射込まれ、博奕打ちで腕に覚えのある安五郎は火縄銃と提灯を手に曲者を追って出たまま戻らなかった。留守の女房の前には、黒い筒袖の外套を着て顔に白粉を塗ったような背の低い男が刃物を手に現れ、金を出せと脅して逃げた。夜明けに探すと、安五郎は山林の道で頭や胸を何か所も斬られて死んでいた。周りの林には篠竹の矢が多数射込まれていた。
原典より
都倉の方では酔っぱらひてもやつてゐるのだらうと思つて其のままにしてをつたが、十六日の夜の十時過ぎになつてまた飼犬が吠えだした。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。