黒筒袖外套の兇賊が侵入し
どんな伝承か
大正四年七月一日、香取郡八都村田部の彌助方に、黒い筒袖の外套を着て頭巾で顔を包んだ、背丈五尺二寸ほどの兇賊が侵入した。一つの蚊帳に親子三人で寝ていた彌助夫婦と男の子は雨戸を締め切って難を避けようとしたが、兇賊は執拗に雨戸をこじ開けて押し入り、白刃を逆手に光らせて「金を出せ」と脅した。彌助は刃物で滅多打ちにされてかなりの裂傷を負い、女房や子も負傷したが、命は取り留めたという強盗傷害事件であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が明治・大正の世に起きた事件や奇談を読み物に仕立てた実話集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十四年に千葉の久賀村で起きた鬼熊の事件など、一揆・殺人・盗みの事件、遺言状をめぐる話、奇人の話、幕末の暗殺を、関係者の話や記録をもとに描く。各話は章を立てた読み物で、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねて聞いた補遺を付す。