おとくとの痴情のもつれと
どんな伝承か
大正四年七月、香取郡八都村田部で主婦おとく(四十二)と娘おみつ(十七)が、眠っているところを何者かに絞殺された。抵抗した形跡もなく、家探しされた形跡があり七、八円が奪われていた。おとくと関係のあった辰次郎が、現場に残された麻縄の切り口が自宅の縄と一致したことなどから逮捕・起訴されたが、後に証拠不十分で釈放された。嫌疑を苦にした辰次郎の父は墓地で縊死したと伝わる、冤罪の悲劇である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が明治・大正の世に起きた事件や奇談を読み物に仕立てた実話集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十四年に千葉の久賀村で起きた鬼熊の事件など、一揆・殺人・盗みの事件、遺言状をめぐる話、奇人の話、幕末の暗殺を、関係者の話や記録をもとに描く。各話は章を立てた読み物で、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねて聞いた補遺を付す。