殺人鬼横行(府馬村の酌婦殺害)
どんな伝承か
大正三年の春、小雨の降る夜、香取郡府馬村府馬にある小料理屋から十八歳の酌婦おはつが姿を消した。荷物はそのままで、女将は舌打ちしながら心当たりの家を見に行ったが、どこにもいない。翌日、小料理屋から数町、道から三四十間ほど奥まった松林の中で、おはつが横たわっているのが見つかった。咽喉を突かれて死んでおり、着物は所どころ切り裂かれ、争って立ち回った跡が周囲に残っていた。囑託医の鑑定では、極めて鋭利な刃物で刺された咽喉部の傷が致命傷で、強姦の形跡は不明だという。金品が奪われていないことから、警察は痴情関係と見て捜査を始めた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集・大正~昭和初期(推定))
本書『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎による幕末から昭和初期にかけての日本各地の怪談・奇談を集成した作品である。明治維新期の松木事件から関東の連続殺人鬼事件まで、実地取材に基づく歴史的事件の記録と、民間に伝わる幽霊譚・怪異現象が混在している。特徴は、単なる怪談の創作ではなく、実在の地名・人物・事件を背景に、社会的矛盾や人間の怨恨が生み出す超自然現象を描く点にある。