寺島家母子絞殺事件
どんな伝承か
六月三十日の夜、山倉村の鳩山にある物品販売業寺島方の裏座敷の雨戸をこじ開けて賊が忍び込んだ。翌朝、いつもなら七時半ごろに開くはずの雨戸が開かないので、隣家の者が裏口へ回って声をかけたが返事がない。雨戸が少し開いているので入ってみると、座敷に主婦のおとくと娘のおみつが蒲団を顔まで被って仰向けに寝ており、揺すってみると二人とも死んで硬くなっていた。傍らには長さ四五尺ほどの細引のような麻縄が落ちていた。二人は熟睡中に絞殺されたと見え抵抗の跡もなく、簞笥や押入は荒らされ七八円の金が奪われていた。母子絞殺事件は世間を驚倒させた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が明治・大正の世に起きた事件や奇談を読み物に仕立てた実話集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十四年に千葉の久賀村で起きた鬼熊の事件など、一揆・殺人・盗みの事件、遺言状をめぐる話、奇人の話、幕末の暗殺を、関係者の話や記録をもとに描く。各話は章を立てた読み物で、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねて聞いた補遺を付す。