戸締まりを忠告して去った黒外套の賊
どんな伝承か
黒い筒袖の外套を着た賊が現れて警察は躍起になったが、どうしても捕らえられない。十一月十六日の夜、山倉村の都祭平基方に一人の賊が来て「やい、金を出せ」と怒鳴り、雨戸を切って刃先を差し込んだ。平基が身構えて黙っていると、賊は裏手へ回って戸を少しこじ開け、二時ごろ雨戸を外して闖入した。例によって片手に懐中電燈を持ち、年齢は三十前後に見えた。家人が一円五十銭を渡すと、「おめえの家は戸締りが悪い、気をつけな」と言い置いて出て行った。賊はその後、半里ほど隔たった見文村五郷内のおとめ方へ現れ、表雨戸をこじ破って押し入った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。