猟銃を構えても撃てなかった母子と兇賊
どんな伝承か
香取郡山倉村の主婦みやの家は、八月にも黒い筒袖の外套を着た小柄な賊に押し入られ、五円九十銭ほどを取られていた。懲りた家では、次に来たら撃ってやると猟銃を構えて待っていた。ところが十一月のある晩、賊はまた現れ、表の雨戸をしまう戸袋を壊し、心張棒を外して入り込んだ。前と同じく顔を包み、左手に懐中電灯、右手に刃物をきらめかせていた。母子はその姿を目にすると引き金を引けず、またも四円を渡して引き取ってもらうほかなかった。
原典より
最初の の侵入に懲りた同家では、今度うせやがったら打つばなすとぼって獵銃をかまへてあつたが、黒い筒袖の外套姿を見ると銃をすることができなかった。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。