小学校に忍び込んだ賊が
どんな伝承か
十二月二十八日の夜、山倉村の小学校へ一人の賊が忍び込み、宿直していた校長太田栄次郎の寝室にあったインバネス、羽織、懐中物などを盗んで立ち去った。黒い筒袖の外套の賊が近隣を荒らし、二十五日には香西村大根で母子が絞殺されたばかりで、警察の警戒をあざ笑うような犯行であった。年も押し詰まった三十日の夜には、賊は家の裏手になった炊事場の雨戸を開けて闖入する。背丈五尺二寸ほどで黒い外套の賊に似ていたが、それはインバネスを着て中折帽をかぶり、片手に刃物を光らせていた。賊は用心棒を取り上げたうえ寝室へ入り、刃物を突きつけて金を出せと脅した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集・大正~昭和初期(推定))
本書『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎による幕末から昭和初期にかけての日本各地の怪談・奇談を集成した作品である。明治維新期の松木事件から関東の連続殺人鬼事件まで、実地取材に基づく歴史的事件の記録と、民間に伝わる幽霊譚・怪異現象が混在している。特徴は、単なる怪談の創作ではなく、実在の地名・人物・事件を背景に、社会的矛盾や人間の怨恨が生み出す超自然現象を描く点にある。