助けた武士を殺した家の血の餅
どんな伝承か
日和佐の二見山のふもとには昔大きな部落があったが、正嘉二年の大津波で海に沈んだという。この地には、二見の沖で難破した船からただ一人泳ぎ着いた武士の話が伝わる。通りかかった山河内の某は、疲れ切った武士を助け上げたが、懐の大金に気づいたとたん心が変わり、武士を殺して金を奪った。何食わぬ顔で立派な家を建てて贅沢に暮らしたが、その暮れに正月の餅をつくと臼から血が出て、何度つき直しても真っ赤に染まった。家は幾年もたたぬうちに没落したという。
原典より
そして何くわぬ顔をして、りっぱな家を建て、ぜいたくざんまいに暮していたが、その年の暮になって、正月のモチをついていると、ウスの中から血が出て、モチは真赤にそまり、何回つきなおしてもダメであった。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。