嫉妬から旅人宿で暴れた荷馬車挽の乱闘
どんな伝承か
大正十四年九月二十八日、千葉県香取郡久賀村二本松の旅人宿松野屋の二階で、荷馬車挽きの熊次郎が酒を飲んでいた。熊は無理をして金を作り女のおはなを自分のものにしていたが、そのおはなに坂田の男が通っているのが面白くない。隣の部屋を当てこすって店のお瀬と言い争ううち、階下から亭主の忠治に怒鳴られ、熊は盃を投げつけると階段の上に立ちはだかって下へ小便を垂らした。怒って駆け上がった忠治は急所をつかまれて動けなくなり、忠治の女房がビール瓶で熊の額を割った。松野屋は二本松の入口の四角山にある一軒家で、騒ぎは近くの茶店松本屋の佐平老人がなだめて収めた。
原典より
忠治は火のやうに怒って階子段を駆けあがりながら熊に打ってかかった。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。