菅澤種雄の家に押しかけた熊
どんな伝承か
けいを打ち倒した熊は、土間で手にした物を持ち直して、民家の垣根の間を曲がりくねって上る坂道をたどり、丘の上の菅澤種雄の家へ向かった。おい種雄、開けてくれと戸を叩くと、寝床に入ろうとしていた種雄は、夜中に来るような用ならろくなことではあるまい、明日来いと突っぱね、桑切り包丁をがちゃがちゃ鳴らした。十四になる娘は何か起こりそうだと察し、そっと裏口から抜け出して隣家へ知らせに走った。戸が開かないので、熊はあきらめてその場を離れた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。