階段の暗がりから睨む祖母
どんな伝承か
ナベさんと呼ばれる男は岩手県花巻市の生まれで、高校を卒業するまで花巻の実家で家族と暮らしていた。高校三年の夏、受験勉強がいやでテレビを見ていると祖母が消せと言い、押し問答の末に祖母は灰皿でブラウン管を割った。腹を立てたナベさんは祖母を殴り、「勝手に死ねばいいじゃないか」と叫んだ。その半月後の朝、祖母は蒲団の中で死んでいた。夏休みのある夜、机で居眠りをして目覚めると、二階の階段の降り口の暗がりに祖母がいて、一番上の段に顎を乗せ、両手を床に置いて凄い眼で睨んでいた。声をかけると四つん這いで部屋に入り込み、ふっと消えたという。
原典より
* 眼に見えない生き物の話* **逆さ悟空*** **おくりもの*** **暗い優しいあな*** **せつなくん*** **異形戦士*** **輪廻譚*** **ヒトニタケ*** **ふりんのみち**—— 奇譚草子(夢枕獏) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇譚草子(夢枕獏)
『奇譚草子』は、夢枕獏が著した怪異譚集である。ここに収めるのは表題の部にあたる「〜の話」と題した短い話二十篇で、友人や知人が自分や身近な人の体験として語った生霊の手、階下で蹴ったばかりなのに二階に座っていた祖母、トンネルや雪山の死体、夜ごと来る小人などの話を、著者が聞き手として書き留める。各話は一つの出来事を短く語る小品で、末尾は箱根に住んだ元関取に憑いてスサノオと名告る存在の話で結ばれる。