二階の見えない客に膳を据える姉
どんな伝承か
町田市の実家から美容院に通う二十歳の見習いには、八つ年上の姉がいた。姉は山形の男と見合い結婚をして二年で離婚し、実家に戻っていた。その姉が週に一度か二度、夕食を何人分か余計に作る。妹が余りをつまもうとすると血相を変えて睨み、これは自分の客に出すものだと言った。姉は膳に載せて二階の自室へ運ぶが、その晩、玄関は閉まったままで誰も訪ねてこない。翌朝、四人分の食事はきれいに消えていた。客は来たと姉は答えるだけである。やがて姉は夜になると化粧をし、口紅を引き香水をつけ、笑みを含んで膳を運ぶようになった。ある夜、二階から低い声と高い声の混じる笑い声が聞こえたが、妹は戸を開けられず、両親も見ぬふりを通した。
原典より
* 二ねん三くみの夜のブランコの話* シジミ成仏の話* 夜になるとやってくる男の話* 手で歩いてきた女の子の話* 階段の暗がりから睨んでいたばあちゃんの話* 眼に見えない生き物の話* **逆さ悟空*** **おくりもの*…—— 奇譚草子(夢枕獏) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇譚草子(夢枕獏)
『奇譚草子』は、夢枕獏が著した怪異譚集である。ここに収めるのは表題の部にあたる「〜の話」と題した短い話二十篇で、友人や知人が自分や身近な人の体験として語った生霊の手、階下で蹴ったばかりなのに二階に座っていた祖母、トンネルや雪山の死体、夜ごと来る小人などの話を、著者が聞き手として書き留める。各話は一つの出来事を短く語る小品で、末尾は箱根に住んだ元関取に憑いてスサノオと名告る存在の話で結ばれる。