新たな一族の先祖になると語る大工
どんな伝承か
柳田国男に先祖という語の一つの意味を考えさせた契機は、神奈川県の原町田に住む一市井人との偶然の邂逅であった。その人は越後高田在の生まれで、母の在所である信州に来て大工を覚え、のちに請負と材木の取引に転じ、今では家作も大分持って楽に暮らしているという。子は六人で出征している者もあるが、大体身が決まったのでそれぞれに家を持たせることができ、墓所も相応のものができた。新たな六軒の一族の御先祖になるのですと朗らかに語ったのを、柳田は古風で穏健な心掛と感心した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊魂観の系譜――歴史民俗学の視点(桜井徳太郎・桜井徳太郎・歴史民俗学・1977年(昭和52年))
『霊魂観の系譜――歴史民俗学の視点』は、桜井徳太郎が一九七七年(昭和五十二年)に著し、筑摩書房から刊行した論文集である。昭和三十二年から五十年にかけて学会誌や雑誌、新聞に発表した論考を収め、民俗学と歴史研究の関係、郷土の民俗像の史的復元、古代のシャマニズムと憑霊、呪いの人形、怨霊から御霊への死霊観を論じる。後半で折口信夫の巫女観と柳田国男の祖先観を検討し、巻末にあとがきと初稿発表覚書を付す。