薬師町の通夜殺し
どんな伝承か
薬師の霊験で栄えた土佐戸波の薬師町だったが、博徒の土居松次(どいまつ)は仇敵・白木琢次を狙っていた。ある朝、田村という旅館の二階に琢次らしい頭を見つけた松次は日本刀を持ち出し、いきなり首を斬り落とした。だがそれは琢次ではなく、宵から薬師堂で通夜をしていた隣村の男が、琢次の空いた寝床に潜り込んで寝ていたところだった。「お薬師様で通夜していた者が殺された、神様も頼みにならぬ」と参詣人は我先に逃げ帰り、それきり誰も参らなくなって薬師町は衰えてしまった。松次はのちに七人を殺め自刃したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。