監物が斬った火を吐く怪物
どんな伝承か
臣の家の酒宴から帰った監物が暗い道を己の邸へあがって往き、門の建物に近づいたところで、一抱えほどの火の光が赫と光って末広がりに顔へかかった。それは身の丈一丈ばかりの怪物の口から吐く焰で、黄金色の両眼がぎらぎらと光っていた。監物が刀を抜いて斬りつけると、どたりと物の崩れる音がして怪物の姿は消えた。手燭を持った臣が来て照らすと、倒れていたのは不動の木像を乗せた台で、木像だけは元のように立ち、台の端板に監物の刃の痕が残っていた。折しも邸の裏山が火を発し、真紅な焰が夜空へ燃えあがった。監物は唸るように甚六へ不動を戸波へ戻せと命じ、木像はその夜のうちに積善寺の薬師堂へ返され、山火事は僅かな焼けかたで消えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。