皇軍全勝の瑞兆とされた巣ごもりの鶴
どんな伝承か
明治三十七年五月、露西亜膺懲の師が起こって間もない頃、兵庫県出石郡室植村桜尾の国有林で巣籠りの鶴が発見された。これこそ皇軍全勝の奇瑞だといって観覧する者が多く、出石町の某は、その奇瑞を天覧に供するために実景を撮影して十二葉の写真を作り、服部兵庫県知事を経て田中宮相のもとまで差し出した。写真はそれぞれ日を措いて撮影したものなので状態は多様であったが、その中には、四方に連なる峰々を背景に、さながら仙境のような処に一株の松の大木があり、そこで四羽の雛をはぐくむ母鶴の写った物もあった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。