蛇となって青年に巻きついた婢の怨念
どんな伝承か
浅野正恭が静岡にいたころ、久能山の下を通って宿へ向かう途中、持仏堂から鐘の音が聞こえてきた。のぞいてみると、首に白い布を巻いた二十歳ほどの青白い若者が鐘を打っていた。気味悪く思って宿の主人に尋ねると、こんないきさつを語った。若者は村の者で、医者も見放す大病を患ったが、家の婢が寝食を忘れて看病したおかげで治った。母親は治ったら嫁にすると約束していたのに、全快すると別の家から嫁を迎えることになり、婢は婚礼の前夜に井戸へ身を投げた。盃事の最中、二尺ほどの蛇が現れて若者の首に巻きつき、何度捨てても戻るので縁談は破れ、若者は蛇に白布を巻いて持仏堂にこもっているのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。