名古屋の宿で見た愛馬鹿毛の死の夢
どんな伝承か
山崎珉平翁の家には鹿毛という馬がいた。遠くの患者の家へ行くときに乗る馬なので大事にされ、馬も翁になついて、翁が乗ると喜んで走るが、ほかの人では動かなかった。ある時、翁は子息の海平を鞍の前輪に乗せて名古屋へ向かい、海老で馬を僕に渡し、乗合馬車と汽車を乗り継いで広小路の定宿大橋屋に投宿した。疲れて早く寝た翁の目の前に、窓の木連格子と、外へ銃口を出した一挺の据え銃が見えてきた。何を獲るのか、馬かと思った途端、窓の外へすうと馬の姿が現れ、それはまぎれもない愛馬の鹿毛であった。危ないと思うと同時に猟銃が鳴り、駆け出そうとして目が覚めた。翌日、家から愛馬が急死したという電報が届いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。