七月の昼に繰り返す藤右衛門火事
どんな伝承か
津具村の上津具の上町に藤右衛門という農夫があった。明治初年、村に浪人あがりの浪爺が流れ込んで脅迫や強請をやるので、村では火の玉小僧と呼んで嫌った。ついに村の者の怒りが破裂し、手に手に竹槍や棍棒を持って浪爺を襲った。逃げる浪爺が山の麓へ来たとき、昼食に山を下りて来た藤右衛門が、日頃憎んでいた相手を目の前に見るなり、手にしていた拐で撲り殺した。七月の午頃のことであった。間もなく藤右衛門の家から火が出て付近に類焼し、以来、上津具で火事といえば必ず藤右衛門の家が中心になって焼けた。二十年前は落雷、昭和三年はガソリンの火で焼け、それがいつも七月で時刻は午前後であった。土地ではこれを藤右衛門火事という。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。