腕や足を欠いた被災地の幽霊
どんな伝承か
岩手県三陸地方の南東部、二つの川の河口がある町では、震災のあと幽霊の話が珍しくなくなった。千人を超える行方不明者を出し、町の人口の一割を超える人が亡くなったため、昼夜を問わず市街地や林の中に、死んだはずの人がしばしば現れるという。それまで幽霊といえば恐ろしい形相で近寄ってくるものと思われていたが、実際に遭ってみると、あまり元気がない感じがするだけだった。噂には、津波が身体を引き裂くほどの力を持つため、腕がなかったり足がなかったり、頭の一部が欠けた幽霊を見たというものや、この町では火事もあったため全身が炭のように黒い幽霊を見たというものもあった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介)
『震災後の不思議な話-三陸の怪談』は、宇田川敬介が著した東日本大震災の被災地の怪異談集である。復興の手伝いで通った三陸の人々から聞いた虫の知らせや生死を分けた出来事、津波の犠牲者の霊、タクシーの幽霊などの話を、津波の言い伝えや『遠野物語』、オシラサマ伝説とあわせて記す。全体を「迫りくる危機と虫の知らせ」から「見守っています」までの四幕に分け、「おわりに」で取材の動機と、話者の名や地域を伏せた方針を述べる。