曲り栃に添うて淵へ沈んだ娘
どんな伝承か
陸中国上閉伊郡金沢村字長谷は山間の村で、草分けの家である大屋の背戸垣内に曲り栃という巨木があった。村の守護神樹で、傍らには谷川と滝があり、そこを滝明神と呼んで小さな祠があった。大屋の一人娘は近郷に並ぶ者なく美しく、あるとき栃の木の下で見知らぬ美男に逢ってから、毎夕その木の下へ通って語らうようになった。その秋の出水で川口の町の大橋が落ち、橋普請の材に曲り栃を伐り出せとの布令が下った。昼は村人が斧で伐り、夜は根下を焼いて、二十一日目にようやく倒れた。その頃から娘はあの木を伐るなと口走って狂ってしまった。巨木は金沢村と大槌町の境の壺桐ヶ淵に沈み、娘は淵へ飛び込んで木に抱きついたまま上がらなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。