供養の日に戻った寒戸の婆さま
どんな伝承か
遠野に伝わる「寒戸の婆さま」の話。昔、松崎という地区に寒戸という家があり、八歳になる女の子が外へ遊びに出たまま帰らなくなった。赤い鼻緒の草履とお人形が家の梨の木の根元にきれいに並べて置かれていたので、誰かにさらわれたのだろうと村人は噂した。主人はいなくなった日を命日として葬式を出し、毎年その日に親類や近所の人を招いて供養を続けた。三十年か五十年たったころ、白髪でぼろぼろの着物を着た老婆が訪ねてきて「三十年前にさらわれた、この家の娘です」と名乗り、みなの元気な様子を見ただけで帰ると言って、どこへともなく消えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介)
『震災後の不思議な話-三陸の怪談』は、宇田川敬介が著した東日本大震災の被災地の怪異談集である。復興の手伝いで通った三陸の人々から聞いた虫の知らせや生死を分けた出来事、津波の犠牲者の霊、タクシーの幽霊などの話を、津波の言い伝えや『遠野物語』、オシラサマ伝説とあわせて記す。全体を「迫りくる危機と虫の知らせ」から「見守っています」までの四幕に分け、「おわりに」で取材の動機と、話者の名や地域を伏せた方針を述べる。