無人の街を指定する消える乗客
どんな伝承か
宮城県東部の、漁業で有名な町でタクシーの運転手から聞いた話。津波に襲われた石巻のある地区では、手を挙げている人を乗せると不思議なことが起きるため、タクシーが行かなくなってしまったという。乗せた客の多くが、津波で完全に流されて無人になった場所を行き先として指定するのである。客は一人でも二人でも、親子連れ、お年寄り、若い女性、スーツ姿の男性と老若男女を問わず、その多くが途中で消えてしまう。タクシーは乗車拒否ができないため、運転手たちは徐々にその地区へ足を向けなくなった。三陸では、幽霊は津波で瓦解した場所を必ず行き先に指定するという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介)
『震災後の不思議な話-三陸の怪談』は、宇田川敬介が著した東日本大震災の被災地の怪異談集である。復興の手伝いで通った三陸の人々から聞いた虫の知らせや生死を分けた出来事、津波の犠牲者の霊、タクシーの幽霊などの話を、津波の言い伝えや『遠野物語』、オシラサマ伝説とあわせて記す。全体を「迫りくる危機と虫の知らせ」から「見守っています」までの四幕に分け、「おわりに」で取材の動機と、話者の名や地域を伏せた方針を述べる。