桶を貸せと呼ぶ船幽霊
どんな伝承か
雄勝の漁師たちが恐れたのが船幽霊である。日が沈み海面が翳りはじめるころ、沖からホーイホーイと呼ぶ声が響き、灯がちらちらと揺れる。大海原のただ中でこれに遭えば、屈強な漁師も顔色を変えて引き揚げにかかる。やがて桶を貸せ、早く桶をと不気味な声が迫り、海はうねり出し、霧が立ちこめる。霧の向こうに船影がぼんやり見え、逃げきれぬと覚悟したときには、アカ桶の底を抜いて投げ渡すのだという。そうしなければ海水を浴びせられて沈められるか、暗礁に乗り上げるといい、今も漁村の年寄りはこれを信じている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ)
『宮城県史 民俗編』は宮城県の県史の民俗編で、ここに収めるのは茂木徳郎が執筆した章「妖怪 幽霊」である。山・道・木・水・海・雪・家など出現の場所による分類に沿って妖怪変化を論じ、幽霊とヒトダマ・死霊・生霊の観念を考えたうえで、県内の妖怪・幽霊・動物変化の伝承を郡・町村名を添えて集める。序説・本論・事例篇・参考の順に並び、序説では昭和二十四年の迷信調査と昭和三十年のNHK仙台中央放送局の調査にも触れる。