船弁慶の平家怨霊
どんな伝承か
謡曲『船弁慶』では、西国へ落ちる源義経の一行が船出してまもなく大物ヶ浦で嵐にあい、波頭に平家一門の怨霊が浮かび上がる。平知盛の亡霊は長刀を振るい、義経までも海に沈めようと迫る。著者はこれを難破の瀬戸際で起きた集団幻覚とみている。兄頼朝の追手におびえながらの船出で、船は大波にもまれ、入ってくる水をかき出しつづけて眠ることも食べることもできない。疲れが極まったところで一人が怨霊が出たと叫び、それがたちまち一同に広がった。生死を共にする主従の固い結びつきと、少し前に壇の浦で平家を滅ぼしたという共通の体験が、同じ幻を見やすくしたのだという。
原典より
一同が疲労困憊の極に達していたときに、一人が波頭に平家の怨霊が現れたと叫び、たちまちそれが一同に感染したのである。—— 怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、第五章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。