「耳なし芳一」
どんな伝承か
ハーンの『怪談』にある「耳なし芳一」では、盲目の琵琶法師芳一が、いかめしい武者の声に呼ばれ、鎧の草ずりの音や女官たちのすすり泣き、手を引く女官の絹のような手ざわりの中で弾き語りをする。ハーンは舞台を平家の滅んだ壇の浦に据え、物語に迫真の臨場感を与えた。ほぼ同じ筋の「耳切団一」が徳島に伝わり、経文を書き漏らした耳をもがれるくだりは越後や庄内の話にも見られるという。著者は、自負心と劣等感の間で揺れる芳一が、高貴な方の御前で弾くという日ごろの空想を、精神変調のさなかに現実として体験した話だと読み解いている。
原典より
しかし、ハーンが舞台を直接に平家滅亡の地、壇の浦にもってきたことは、物語に迫真の臨場感を加えるたいへんな効果をもたらした。—— 怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、第五章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。