引き揚げ船の甲板で笑った戦友
どんな伝承か
ラジオ番組に電話をかけてきた男性の話である。昭和十四年九月十二日、大陸から引き揚げる船の上から六連島が見えた。内地が見えたというので、甲板では大勢の戦友が跳ね回って喜んでいる真昼のことだった。そのさなか、死んだはずの戦友の一人がこちらを向いてにっこり笑っている。肝をつぶして、お前は死んだのではないかと問うと、相手は笑いながら、自分にもかわいい子がいるのだからお前たちと一緒に帰るのだと答え、また笑ったという。夜でも夕暮れでもなく、皆が浮かれている白昼の出来事だったからこそ、彼は幽霊の存在を疑いようがないと語った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けについてのマジメな話』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した幽霊とお化けをめぐる随筆である。自ら主宰する「お化けを守る会」に寄せられた体験談や、大阪の毎日放送のラジオ番組で聴取者が電話で語った話を軸に、前世や霊媒・降霊実験など海外の心霊研究、井上円了の妖怪論、古い記録に見える犬神などの憑きものを取りあげる。体験談から死後の世界、お化けを呼ぶ方法、昔のお化けへと進む八章立てで、巻末にあとがきを置く。