船幽霊と幽霊船
どんな伝承か
船幽霊は嵐で難破寸前のときに現れるもののようである。幽霊船は波静かな暗夜に、他に船も出ていないのに前方へ突然現れる。衝突を避けようと旋回してもまた前に出て、停船してじっと見つめるとすうっと消える。風に逆らって走り、灯はついていても海面に映らないことでそれと知れるという。船幽霊には、気を抜いていると水死した亡者どもが現れて船底を抜き、柄杓で海水を注いで沈めるので、亡者に柄杓を貸せと言われたら底を抜いて貸さねばならぬという伝えが付いている。著者はこれを、前方を監視する水夫の見る感覚遮断性幻覚とみる。謡曲『船弁慶』で義経一行が大物ヶ浦の嵐に遭い波頭の平家の怨霊に悩まされる場面は、不眠・空腹・疲労・死の恐怖が重なった集団幻覚だと説明する。
原典より
一同が疲労困憊の極に達していたときに、一人が波頭に平家の怨霊が現れたと叫び、たちまちそれが一同に感染したのである。—— 怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、第五章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。