行燈の油を嘗め尽くす赤児
どんな伝承か
これも江戸の中頃の話である。赤児を連れた見知らぬ女が、道に迷ったといって庄屋の家に泊まった。夜半、赤児は布団から這い出し、行燈の油を一滴残さず嘗めてしまった。翌朝、女は礼を述べて立ち去り、庄屋の家では油がなくなったのを訝しんだが、あの赤児が油嘗赤児であるとは知らなかった。女は街道の松の木の下で赤児を下ろすと、赤児は手毬のようにぽんぽんと弾んで飛び回って遊んだ。のち、久保田、いまの秋田の城下で油問屋の佐勘が火事になり、城下は大騒ぎとなった。その野次馬に混じって油嘗赤児を背負った女も見物に来ており、女がもったいないと呟くと、赤児は笑って、おれは半分は嘗めているからいい、といったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。