煙草盆を頭にのせた火魂のお化け
どんな伝承か
著者の少年時代まで、石垣島には火魂というお化けがいると信じられていた。原因のわからない火事はその仕業とされ、近所の人々がブリキ缶やざるを叩いて家の周りを回り、「火魂出て失せろ」と怒鳴って追い払った。火魂は黒髪をなびかせた女で、火種の入った煙草盆を頭にのせて歩き、入り込まれた家はたちまち火事になるという。ある晩、夜更けの村道を歩いていた青年二人が、道端の福木の下にそのお化けが立っているのを見た。二人は見ないふりをして手を握り合い、黙って通り過ぎてから互いに確かめ合い、ぞっとして駆け出した。この噂で村人たちは火魂の実在を信じ直したという。
原典より
火魂のお化けは女で、黒髪をなびかせた頭の上に、火種の入ったタバコ盆を乗っけて歩いているとのことであった。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。