赤子の生魂を狙う猫とクスケーの呪文
どんな伝承か
石垣島に、怖いもの知らずの働き者の百姓上地多呂がいた。ある晩、野良からの帰りに亀甲墓の並ぶ所で赤ん坊の泣き声を聞いて近づくと、墓の上で鳴いていたのは野良猫だった。猫は墓の中の声から、明日の夕方に親戚の上地石戸の家の石垣で赤ん坊そっくりに鳴けば、その子の生魂を奪えると教えられていた。ただし子がくしゃみをするたびに誰かが「クスケー」と唱えれば呪いは効かないという。翌日、多呂は早めに石戸の家を訪ね、誕生祝いの酒を酌み交わした。夕暮れ、猫が鳴き、赤ん坊がくしゃみをするたびに多呂は「クスケー」と叫び、猫を怒鳴りつけると猫は消えた。以来島ではくしゃみにクスケーと唱えるという。
原典より
多呂は待っていましたとばかりに「クスケー」と叫んだ。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。