平得の松林でロー幽霊に敗れた易者
どんな伝承か
石垣島の字石垣に、「ミンナー主(耳の小さい親父)」とあだ名された六十がらみの易者がいた。お化けを見抜く目とそれを封じる経文を持つと評判で、新築や家畜の病のたびに呼ばれ、豚小屋のそばに足の悪い女のお化けがいると言っては塩をまき経を唱えた。四ヵ村から平得・大浜へ向かう街道には、山羊や白い仔豚、古井戸の白衣の女などのお化けが出るとされた。ある月夜、大浜村での祈禱を終えて午前二時半ごろ帰る途中、平得村の入口で仔豚の幽霊を経で退けた。松林の墓地から赤子を背負って「ローロー」とあやす女の幽霊が出ると、下駄を脱いでその上に坐り経を唱えたが、目を開けると明るい月夜が墨を流したような闇になっていた。とっておきの経で月明かりを取り戻し、封じたつもりで振り返ると、口の裂けた幽霊が掴みかかろうとしていた。裸足で逃げ帰った彼は熱を出し、お化け封じをやめた。以来、人々はロー幽霊を恐れるようになったという。
原典より
そこには髪をふり乱した例の幽霊が、眼をむきだし、口は大きく裂けて、形相ものすごく、両手の指をまげて、つかみかかろうとしているではないか。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。