死体を掘る医学生に迫った狼の目
どんな伝承か
明治の初め頃、人体解剖の材料に苦労していた医学生たちの間で語られた話。矢矧川で身元不明の水死人が出て川堤に埋められると、岡崎にいた数人の医学生がひそかに掘り出しに出かけた。火を点けられないため星明かりを頼りに掘り出し、鋸で骨を切る不気味な音だけが響く中、一人が「あれはなんだ」と声を上げた。皆が振り返ると、上流の堤に地上一、二尺の高さで小さく赤い二つの光がぎらぎらと光り、こちらに向かって来るようだった。一同は慌てて手にした物を持って逃げ出し、途中で誰かが「おい、首は持ってるか」と尋ねたところで話は途切れている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。