浄土寺に居並ぶ裃侍と蟇の群れ
どんな伝承か
明治になる二、三年前というから慶応の初めごろ、石見国邑智郡粕淵村字小原の古刹浄土寺の廊下に、夜ごと裃姿の侍が何十人も並んで座る姿が見え、住職も村人も怪しんでいた。侍にはひきがえるが化けるという言い伝えがあったので、ある日村人が大勢集まって境内をくまなく調べ、裏手の江の川で蛇淵と呼ばれる深い淵のほとりまで行った。淵の上に穴の開いた大岩があり、中をのぞくと大小無数のひきがえるがうごめいていた。捕らえてカマスに詰めると一杯になるほどで、村人がそれを蛇淵へ投げ捨てると、以後寺の怪異はぴたりと止んだという。
原典より
* 狐の本音 (296)* 空中に消えた兵曹 (297)* 怪談黒子禍 (301)* 啞の妖女 (311)* 高尾越の怪異 (313)* 小廝の放火 (316)* 妖怪屋敷 (318)*…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。