若松を追う娘の霊と末吉寺の鐘
どんな伝承か
昔、琉球に美少年として名高い十四、五歳の仲城若松がいた。公用で首里の王城へ向かう冬の夜、小雨で道に迷い、野中の一軒家に宿を乞うた。糸車を回していた十七、八の美しい娘は、若松の名を聞くと喜んで招き入れ、寝入った若松を起こして思いを打ち明け、抱きついた。若松は振り払って家を出たが、娘は髪を振り乱し、口にかんざしをくわえて追ってきた。若松が道端の末吉寺に駆け込むと、和尚は釣鐘を下ろして若松を隠したように見せ、乗り込んだ娘を鐘の中へ入らせて経を唱えた。鬼の顔で暴れた娘は法力で消えた。娘は若松に恋い焦がれて死んだ者の霊で、一軒家はその墓だったという。
原典より
この美女は、仲城若松に懸想(けそう)して、こがれ死んだとかで、小雨の降る晩の野中の一軒家と思ったのは、彼女の眠る墓地で、彼女は幽霊であったという。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。