野良猫と懐中電灯だった妖怪屋敷
どんな伝承か
中野がまだ東京市に編入されない頃、中野町中野三七六六に間数二十もある大きな空家があり、二年前から空いていた。その年の冬、毎晩丑満時になると青い光が燃え、うウうウという怪しい唸り声が聞こえるというので、門口まで行く青年はあっても中へ入る者はなく、噂は噂を生んで相馬の古御所のような妖怪屋敷と呼ばれた。中野署は十一月三十日の晩に刑事を張り込ませた。午前二時頃、二階から獣の唸りあうような声が幾つも聞こえ、階段の傍には猫の死骸があった。二階には十疋あまりの野良猫が眼を光らせ、便所脇の四畳半には同町の加奈田源次という家出青年が自炊しており、青い光はその懐中電灯であった。
原典より
* 自然と鳴る太鼓 (319)* 線香の匂い (321)* 雨乞祭の怪 (323)* 蛇の兜 (324)* 龍神 (325)* 四国遍路の奇蹟 (326)* 如来像の怒り (328)* 屋…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。