麴町の店先に来た山姥の女
どんな伝承か
麴町の裏店に住む独り者で小間物の行商をする甚九郎の店先へ、春の夕方、旅の女が倒れ込むように腰を下ろした。眩暈がしたと言って一晩の宿を乞われ、銭三分を出されて泊めてやると、翌朝女は八王子在の身寄りのない者だと名乗り、親の残した三十両を商いの元手に使ってくれと差し出したので、二人は夫婦になる約束をした。ところが隣の源吉が夜更けに窓を覗くと、月の光の射した障子に電光のような青い光がきらきらと映った。折しも奥州棚倉の桜町で舅姑を刺殺し逐電した女房の詮議が江戸まで及んでおり、恐れた甚九郎は三春へ逃げるが女は追って来る。ついに彼は山路の辻堂の縁で女を脇差で突いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。