月に両親を見る狂女と奪われた軍旗
どんな伝承か
明治十年十月十七日の月夜、鹿児島の下方限署長赤木義彦は、西南戦争で薩軍に奪われた小倉十四連隊の軍旗を探すため、按摩に扮して町を歩いていた。市の東外れの磯の浜で桜島を眺めていると、髪を振り乱した十六、七の少女が現れ、月の中に父と母がいると叫んで両手を差し伸べた。名を問うとみねと答え、やがて駆け去ったので後を追うと、谷山郷の外れの折田三介という表札の家に入った。赤木が按摩として上がり込むと、額に傷のある兄の三介が、父は戦死し母も病死したので妹は気がふれたと語り、軍旗を奪った村田三介の遺品を未亡人に届けたと漏らした。翌日赤木は村田家を捜索し、天井裏から軍旗を押収したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。