寂光寺門前の杉陰で笑う青い顔の女
どんな伝承か
文政のころ、錦見の武士森脇某が海辺へ猟に行き、帰りに日が暮れた。暗がりの中、牛の谷の寂光寺の門前を通ると、竹林が茂り門には古い杉が数本立っていたが、その杉の陰に顔の青い女が髪を乱し、半身をあらわにして立ち、森脇を見て少し笑った。森脇は知らぬ顔で通り過ぎ、足早に川原へ出て渡し舟で帰ったが、家の者が見ると顔は真っ青で声も震えていた。それからは家の中でも、あの柱の後ろに青い女が立っていると言い続け、ついに病に伏して医者の手も及ばず亡くなったという。
原典より
文政年の頃にや、錦見の士、森脇某、或日、海辺に猟に行き、帰途日暮たり。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。