巡査の目の前でも飛んでくる石
どんな伝承か
明治二十年、神戸港山手通六丁目に、二軒続きの長屋建ての家があった。市街は坂道で、両側とも家屋が櫛比している。三月一日の午前十時ごろ、魚屋が来て裏の井戸端で魚をさばいていると、どこからか石が飛んできて魚屋のそばに落ちた。それを皮切りに、以来毎日、石や砂が飛んでくるようになった。飯箸を投げつけられたり炉の火を乱されたりと奇怪な現象が続いたので警察署に訴え、毎日巡査二、三名が宿直したが、それでも巡査数名の面前で石がさかんに飛んできた。こうしたことが数日続き、五日目にすっかりおさまった。近辺では、その家にいた西京から預かった十二歳の少女が神経病になり、人の見ていない間にしていたのだろうと噂された。
原典より
去る三月一日、午前十時頃、魚屋が来て、うらの井戸ばたで魚を料理していたところ、どこからか石が飛んできて魚屋のそばに落ちたのをはじめとして、それ以来、毎日石や砂が飛んでくるようになった。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。