飛石の幽霊(追憶の冬夜)
どんな伝承か
寺田寅彦が子供のころ、寒月の冴えた夜に友達の家から帰る途中、川沿いの道の真ん中を透かして見ると、地面に白っぽい斑点が飛石のように規則正しく一列に浮かんで見えた。昔この道がずっと低かったころ、砂利を詰めた土俵を飛石代わりに並べ、のちにそのまま土で埋めて道を上げたもので、砂利が湿気を吸うためにその上だけがよく乾いて白く見えるのだと聞かされた。けれども、なぜ月夜によく見えるのかは誰も説明できなかった。寅彦はこの「飛石の幽霊」に、埋もれた過去が月の光に浮かされて現れたような、不思議な凄みを感じたという。そんな晩は羽織を頭からかぶり、脇目もふらず家路を急いだ。
原典より
それはとにかく、寒月に照らし出されたこの「飛石の幽霊」には何となく神秘的な凄味が感ぜられた。—— 怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦)
『怪異考 - 化物の進化』は、物理学者寺田寅彦が大正九年から昭和十二年にかけて雑誌・新聞に書いた随筆と談話を集めた本である。土佐の「孕のジャン」や濃尾のギバを地鳴りや空中放電で説く「怪異考」、昔の人が化物を自然現象の説明に用いたことを論じる「化物の進化」のほか、人魂、狸の腹鼓、厄年、夢判断などを科学者の目で語る。各篇の末尾に初出の年月と掲載誌名を記すが、「狸の腹鼓」だけは「単行本未収録」とのみ記す。