庭の飛石になった娘の墓石
どんな伝承か
小石川区第六天町、江戸川べりから拓大へ向かう谷あいの道に黒板塀の古い家があり、そこへ松嶺の旧藩主だった酒井子爵が越してきた。不幸続きで、地所も家作もあるのに立ち行かなくなっての転居だった。ところが移ってみると土地は高く売れ、家作は区画整理で買収され、みるみる暮らし向きがよくなる。本郷千駄木に屋敷を新築して越す間際、毎日踏んでいた庭の飛石の一つに文字が浮いているのに気づいた。古い墓石に彫られた戒名である。近所に尋ねると、旗本の家で早世した一人娘を邸内に葬った跡で、家が人手に渡るうちに墓石が飛石にされたのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。