千駄ヶ谷の化物屋敷に招かれた名医
どんな伝承か
宝暦年間、江戸の千駄ヶ谷に化物屋敷があった。名医として知られた見道が往診を頼まれて立派な屋敷へ行き、死にそうな婦人に薬を調合していると、家の中が騒がしい。のぞくと大鍋で小さな人間を大勢煮ていたので、驚いて逃げ出した。表で草履取りが道を明るくしてくれたが、その顔は長さ三尺余り、目は日月のように輝き、口から火炎を吹いたので見道は失神した。迎えに来た供が屋敷を見ると門は古び柱は傾き、蜘蛛の巣だらけの荒れ地で、近所では狐狸しか住まぬ化物屋敷だと言った。見道は鮫が橋の藪で倒れているのを見つけられ、ひと月余り患った。すべて古狸のしわざだったという。
原典より
医師の見道、不思議に思い、ひそかに中をのぞいて見ると、大きな大きな鍋の中に、大ぜいの小人間をいれて、煮たてているではないか。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。